「特定調停」について

今回は,事業再生の手法の一つとしての「特定調停」について,ご説明したいと思います。
特定調停については,中小企業金融円滑化法が平成25年3月に終了したことへの対応策の一つとして,平成26年12月より新しい運用(以下「特定調停スキーム」といいます)が開始されました。
この特定調停スキームにおいては,比較的小規模(おおむね年間売上(年商)20億円以下,負債総額10億円以下の企業が想定されています)の中小企業を対象として,比較的緩やかな要件のもとで,裁判所における特定調停制度を活用したうえで,企業の再生を支援することが目指されています。

 

特定調停スキームの特徴としては,私的整理の一つであって事業価値の毀損が生じにくいこと,手続費用が安価であること,要件が比較的緩やかであること等があげられます。
また,特定調停においては,専門的な知識経験を有する調停委員(特定調停法8条)が関与したうえで,公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の調停条項を定めるものとされていることから(特定調停法17条等),債権者(特定調停スキームにおける債権者は金融機関のみとなります)の納得を得られることが期待できます。

さらに,特定調停において裁判所は,民事調停委員の意見を聴いたうえで,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で,当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件の解決のために必要な決定をすることができるものとされており(民事調停法17条,いわゆる「17条決定」),この17条決定は特定調停の大きな特徴となります。17条決定の告知から2週間以内に異議の申立てがないときは,当該決定は裁判上の和解と同一の効力を生ずるものとされていることから(民事調停法18条5項),当該決定に積極的に賛成することはできないものの,反対するものでもないという債権者が存在する場合,17条決定による解決を図ることが可能となるのです。

 

このような特定調停の特徴を活かすため,本年に入って,中小企業の廃業・清算を円滑にすすめるために,廃業支援型の特定調停スキーム利用の手引きが策定されたところであり,事業再生以外の場面でも特定調停手続の活用が期待されています。

「法的整理か私的整理か」

今回は,「法的整理か私的整理か」を選択する際,考えるべきメリット・デメリットについて,ご説明したいと思います。
前回の記事でも触れたように,法的整理と私的整理は,法に基づき,裁判所の介在のもとで手続がすすめられるか否か,で区別されますから,基本的にはこれに応じたメリット・デメリットが認められることとなります。

法的整理のメリットとしては,法に則って裁判所の関与のもとで手続がすすめられることによる,「公平性」や手続の「安定性」があげられます。法的整理においては,債権者の一部が反対していても,多数決のもとで,全債権者に対して公平に対応することが可能です。
逆にデメリットとしては,事実が公表されることによる,「事業価値の毀損」があげられます。倒産の情報が拡散することによって,再建へ致命的なダメージを受けてしまう可能性が高いことは,法的整理の大きなデメリットです。また,手続が複雑で柔軟性に欠けることや費用の負担が大きいことも,デメリットとなります。

他方,私的整理のメリットとしては,私的,つまり当事者間の合意によって手続がすすめられることによる,「柔軟性」や「迅速性」があげられます。また,「秘密保持」によって取引の継続を期待できることもメリットとなります。
逆にデメリットとしては,私的,すなわち法に定められた手続がないことによる,手続の「不安定性」があげられます。もっとも,この点に関しては,前回ご紹介した私的整理に関するガイドライン等が作成され,対応が行われているところです。また,私的整理の成立のためには,対象となる債権者全員の同意が(事実上)必要となることもデメリットとなります。

実務上は,私的整理の方が割合として多く,実際にも,どちらを選択するか検討する際は,まずは私的整理ができないかという観点からの検討が行われることとなります。

 

昨年より報道されているタカタの事業再生についても,今回のテーマである「法的整理か私的整理か」が問題となっています。昨年11月時点より,経営者側が,製品の安定供給を続けること等を理由に,私的整理を強く希望しており,その方向での調整を行っているとの報道がされていましたが,その後,先月1月中頃に,スポンサー候補から,法的整理による解決の提案が行われたとの報道があったところです。
この件については,既に世界的に大きく報道が行われていることから,前述の「事業価値の毀損」は現時点では大きな問題となりませんが,大企業の事業再生の場面において,「柔軟性」の高い私的整理を選択して,事業を継続していくのか,それとも,「安定性」の高い法的整理を選択して,再建を「確実」にするのか,という今回のテーマがまさに現在進行形で問題となっている事案ですので,この記事を頭の片隅においたうえで,今後の動向にご注目頂ければと思います。

「事業再生」について

このブログでは,今後,「事業再生」に関するテーマを扱っていきたいと思います。

まず,このテーマそのものについての確認ですが,「事業再生」とは,債務の返済が困難な状態に陥った債務者が,資産を清算するのではなく,債権者との間で調整等を行いながら,「事業」の再生を図ることをいいます。
事業再生は,①法律(民事再生法等)に基づいて,裁判所が介在して手続がすすめられる「法的整理」と,②それ以外の「私的整理」の2つに大きく分かれます。さらに,前者①の法的整理は,民事再生手続・会社更生手続等に分かれ,後者②の私的整理は,私的整理に関するガイドラインに基づくものや,事業再生ADRに基づくもの,特定調停等に分かれることとなります。なお,「ADR」とは,いわゆる裁判外紛争解決手続といわれるもので,特定調停は倒産ADRの代表的なものとなります。

これらの手続には,それぞれにメリット・デメリットがあることから,債務者としては,各手続の特色を十分に理解したうえで,直面している事案に応じて,どの方法を選択するかを判断していく必要があります。

次回以降では,それぞれの手続の特色等について,さらに具体的にご説明していきたいと思います。